
「会社を設立するとき、法人実印は必ず作らなければならないのか」「オンライン登記なら法人印鑑は不要なのか」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
2021年2月15日から、オンラインで会社・法人の登記申請を行う場合、法務局への印鑑届出は任意になりました。そのため、制度上は法人実印を法務局へ届け出ずに会社を設立することも可能です。
しかし、印鑑届出が任意になったことと、会社経営に法人実印が必要ないことは同じではありません。
会社設立後には、法人口座の開設、融資、不動産契約、重要な取引契約などで、法人実印や法人の印鑑証明書を求められる可能性があります。
この記事では、法人実印は本当に必要なのか、法人実印を作らない場合にどのような不便があるのか、オンライン登記と印鑑届出の関係について分かりやすく解説します。
この記事の目次
法人実印は必要?結論としては作っておくのがおすすめ
法人実印は、すべての会社が法律上必ず作らなければならない印鑑ではありません。
オンラインで設立登記を申請し、必要な電子署名や電子証明書を利用する場合には、法務局へ会社の印鑑を提出せずに設立登記を完了できるためです。
その意味では、「会社設立時に法人実印は絶対に必要か」という質問に対する制度上の答えは、必ずしも必要ではないとなります。
ただし、実際に会社を運営することまで考えると、法人実印は作っておくことをおすすめします。
会社設立後には、次のような手続きや取引が発生する可能性があるためです。
- 法人口座の開設
- 金融機関からの融資
- 事務所・店舗などの賃貸借契約
- 不動産の購入や売却
- 自動車など高額資産の契約
- 取引先との重要な契約
- 許認可や入札に関係する手続き
- 法人の印鑑証明書の提出
すべての手続きで法人実印が求められるわけではありませんが、相手方の運用によっては法人実印と印鑑証明書の提出を求められます。
必要になってから急いで作るよりも、会社設立時に用意して法務局へ届け出ておいた方が、その後の手続きを進めやすくなります。
結論:オンライン登記だけを考えれば法人実印を作らない選択もできますが、設立後の銀行・融資・契約などを考えると、最初に作っておく方が現実的です。
法人実印とは法務局へ届け出る会社代表者の印鑑
法人実印とは、会社や法人の代表者が法務局へ届け出る印鑑です。
一般には、次のような名称でも呼ばれています。
- 会社実印
- 代表者印
- 法人代表者印
- 丸印
- 登記印
「法人実印」という名称の印鑑が最初から存在するわけではありません。
作成した印鑑を法務局へ届け出ることで、その印鑑について法人の印鑑証明書を取得できるようになります。
個人の場合も、市区町村に印鑑登録した印鑑が実印になります。それと同じように、会社では法務局へ届け出た代表者の印鑑が、一般に法人実印と呼ばれます。
法人実印は会社そのものではなく代表者が届け出る
法人実印は「会社名義の印鑑」というイメージがありますが、登記制度上は会社・法人の代表者などが印鑑提出者となります。
株式会社であれば、一般的には代表取締役が印鑑を提出します。合同会社では、代表社員が印鑑を提出するのが基本です。
代表者が交代した場合には、新しい代表者による印鑑届出などの手続きが必要になることがあります。
法人の印鑑届出が任意になったのはオンライン申請の場合
「法人の印鑑届出が任意になった」と聞くと、会社設立では一切印鑑が必要なくなったように感じるかもしれません。
しかし、正確には、オンラインで商業・法人登記を申請し、申請情報などに必要な電子署名を付ける場合、登記所への印鑑提出が任意になったという制度です。
法務省は、2021年2月15日から、オンラインで登記申請をする場合には登記所への印鑑提出を任意としています。
書面による登記申請では印鑑が必要になる
印鑑届出が任意となるのは、電子署名を利用したオンライン申請の場合です。
申請書を紙で作成して法務局の窓口へ提出したり、郵送したりする書面申請では、申請人の確認のため、原則として法務局へ提出した代表者印を申請書に押印します。
そのため、単にパソコンで登記事項を作成しただけでは、必ずしも「オンライン申請」にはなりません。
登記事項をオンラインで送信した後、申請書や添付書類を紙で提出する方式などもあるため、利用する申請方法を確認する必要があります。
オンライン登記で法人印鑑が不要になる条件
オンライン登記で印鑑提出を省略するには、原則として申請情報や委任状情報に申請人本人の電子署名を付け、利用可能な電子証明書を送信します。
紙に押印する代わりに電子署名によって本人確認を行う仕組みであり、何の本人確認もせずに登記できるわけではありません。
また、司法書士へ登記申請を依頼する場合には、必要書類や電子署名の方法が異なることがあります。実際の申請方法は、依頼する司法書士へ確認してください。
会社設立時に法人実印を作らないことはできる?
必要な電子署名を利用して設立登記をオンライン申請するのであれば、法人実印を法務局へ届け出ずに会社を設立することは可能です。
したがって、「会社設立では実印が不要になった」という説明は、登記申請だけを見れば間違いではありません。
ただし、次の3つは分けて考える必要があります。
| 項目 | 法人実印の必要性 |
|---|---|
| オンラインによる設立登記 | 一定の条件を満たせば印鑑提出は任意 |
| 設立後の会社運営 | 契約先や金融機関から求められる可能性がある |
| 法人の印鑑証明書 | 法務局へ印鑑を提出していなければ通常の印鑑証明書を取得できない |
つまり、会社を設立できるかどうかだけで判断すれば、法人実印を作らない選択もできます。
一方で、設立後に印鑑証明書が必要となった場合は、改めて法人実印を作り、法務局へ印鑑を提出しなければなりません。
印鑑届出は設立後からでもできる
設立登記のオンライン申請時に印鑑を提出しなかった場合でも、後から印鑑届書を提出することは可能です。
印鑑届出は、書面を法務局へ持参・郵送する方法のほか、所定の要件を満たせばオンラインで行う方法もあります。
ただし、取引先から急に印鑑証明書を求められた場合、印鑑の作成と届出が完了するまで手続きを進められない可能性があります。
法人実印はいつ使う?主な使用場面
法人実印は、日常的な書類へ毎回押す印鑑ではありません。
主に、会社にとって重要性の高い契約や、相手方が代表者本人の意思確認を重視する場面で使用します。
法人口座を開設するとき
金融機関で法人口座を開設するとき、会社の印鑑や代表者個人の本人確認書類などを求められることがあります。
近年は金融機関によって必要書類が異なり、必ず法人実印を求められるとは限りません。
それでも、届出印や法人の印鑑証明書が必要となる金融機関もあるため、口座開設予定の金融機関へ事前に確認しましょう。
銀行や日本政策金融公庫などから融資を受けるとき
融資契約や保証に関する書類では、法人実印の押印や法人の印鑑証明書を求められる場合があります。
創業融資を予定している会社は、設立後すぐに融資手続きへ進むこともあります。
法人実印を作らずに設立した場合、融資申込みの段階で急いで準備することになりかねません。
事務所や店舗を借りるとき
法人名義で事務所・店舗・倉庫などを借りる際、賃貸借契約書への法人実印の押印や、印鑑証明書の提出を求められることがあります。
特に保証会社を利用する契約や、契約金額が大きい事業用物件では、本人確認資料が厳格になる傾向があります。
会社名義で不動産を売買するとき
会社名義で土地や建物を購入・売却するときは、登記手続きや売買契約に関係して、法人実印や印鑑証明書が必要になる場合があります。
不動産取引では大きな金額が動くため、電子契約ではなく、実印と印鑑証明書によって確認する運用が残っています。
自動車を会社名義で購入・売却するとき
登録自動車を法人名義で購入したり、売却・名義変更したりするときにも、法人の印鑑証明書が必要になる場合があります。
会社名義の営業車や社用車を購入する予定がある場合は、法人実印を準備しておくと手続きを進めやすくなります。
重要な契約書を締結するとき
取引基本契約、業務委託契約、代理店契約、保証契約、事業譲渡契約など、会社にとって重要な契約書では法人実印を使用することがあります。
法律上、契約は必ず実印を押さなければ成立しないわけではありません。
しかし、契約相手が社内規定として、法人実印の押印や印鑑証明書の提出を求めることがあります。
▶法人設立完全ガイド|必要な手続き・費用・印鑑・名刺まで初心者向けに解説
法人実印を作らない場合のデメリット
法人実印を作らないことで、印鑑代や印鑑届出の手間を省くことはできます。
一方で、会社設立後には次のようなデメリットが考えられます。
法人の印鑑証明書をすぐに提出できない
法務局へ代表者印を提出していなければ、その印鑑について法人の印鑑証明書を取得できません。
銀行、金融機関、不動産会社、取引先などから印鑑証明書を求められた時点で、法人実印の作成と印鑑届出が必要になります。
契約や口座開設が遅れる可能性がある
法人実印は、注文した当日に必ず完成するとは限りません。
さらに、完成後は法務局への届出も必要です。
契約日や融資実行日が決まっていると、法人実印の準備待ちによって手続きが遅れる可能性があります。
取引先ごとに必要性を確認しなければならない
完全なペーパーレス経営を目指していても、すべての取引先が電子契約に対応しているとは限りません。
法人実印を持たない場合、契約のたびに電子署名で対応できるか、認印や角印でよいか、印鑑証明書が不要かを確認する必要があります。
後から作ると社内書類や契約印の運用が変わる
設立当初は認印や角印だけで運用し、途中から法人実印を作った場合、どの書類にどの印鑑を使うかを改めて決めなければなりません。
最初から法人実印・法人銀行印・角印を使い分けておく方が、印鑑管理のルールを整えやすくなります。
電子契約を利用する会社でも法人実印は必要?
契約書、請求書、行政手続きをすべてオンラインで完結できる会社であれば、法人実印を使う機会は少なくなります。
特に、次のような会社では、法人実印を使用しない運用も考えられます。
- 契約を原則として電子契約で締結する
- 取引先も電子契約に対応している
- 不動産や自動車を法人名義で所有しない
- 融資を受ける予定がない
- 金融機関が法人実印を求めない
- 商業登記電子証明書などを適切に管理できる
ただし、自社だけが電子化しても、契約相手や金融機関の手続きまで変更することはできません。
設立時点では不要に見えても、事業拡大、融資、事務所移転、車両購入などによって必要になる可能性があります。
法人実印を作らない場合は、単に費用を抑えるためではなく、今後の取引を含めて本当に不要かを検討することが大切です。
電子署名と印鑑はどちらか一方しか使えないわけではない
電子署名を導入した会社でも、法人実印を持つことはできます。
オンラインで完結する手続きには電子署名を使い、相手方から印鑑証明書を求められる契約には法人実印を使うという併用も可能です。
現時点では、電子署名か法人実印のどちらか一方に限定するより、手続きに応じて使い分ける方が柔軟に対応できます。
法人実印はいつまでに作るべき?
法人実印を作るのであれば、会社名と本店所在地を決めた後、設立登記を申請する前に注文するのがおすすめです。
一般的な流れは次のとおりです。
- 会社の商号を決める
- 本店所在地や事業目的を決める
- 法人実印などを注文する
- 定款を作成する
- 資本金を払い込む
- 設立登記を申請する
- 必要に応じて印鑑カードや印鑑証明書を取得する
- 法人口座開設や税務・社会保険の手続きを行う
紙で設立登記を申請する場合は、登記申請時に法人実印が必要になります。
オンライン申請で印鑑提出を省略する場合でも、設立直後に口座開設や融資申込みを予定しているなら、あらかじめ作成しておいた方が安心です。
▶会社設立で印鑑はいつ必要?登記前・口座開設前に準備する流れ
会社名が確定する前に注文しない
法人実印には、通常、会社の正式な商号を彫刻します。
「株式会社」を前に付けるか後ろに付けるか、アルファベットや記号をどのように表記するかが確定してから注文しましょう。
定款や登記申請書と異なる会社名で作ってしまうと、作り直しが必要になることがあります。
法人実印を作るときのサイズ・形・彫刻内容
法人実印には、一定の大きさに関する規定があります。
法務局へ提出できる印鑑は、一般に一辺が1cmを超え、3cm以内の正方形に収まるものとされています。
実際の法人実印では、次のサイズが多く選ばれています。
- 18.0mm
- 16.5mm
- 21.0mm
なかでも18.0mmは、株式会社・合同会社を問わず、法人実印として選ばれやすい標準的なサイズです。
法人実印の一般的な彫刻内容
丸形の法人実印では、外側と内側に文字を分けて彫刻する回文形式が一般的です。
| 彫刻位置 | 一般的な内容 |
|---|---|
| 外側 | 株式会社〇〇、〇〇株式会社、合同会社〇〇などの商号 |
| 内側 | 代表取締役印、代表者印、代表社員之印など |
会社の種類や代表者の資格に合わせて、内側の文字を選びます。
法人実印に向いている印鑑素材
法人実印は長期間使用する可能性があるため、耐久性も重要です。
代表的な素材には、次のようなものがあります。
- チタン:耐久性が高く、摩耗や欠けに強い
- 黒水牛:価格と品質のバランスがよく、法人印鑑の定番
- 牛角:透明感や色合いがあり、高級感がある
- 柘:比較的安価で、設立費用を抑えやすい
会社を長く運営する予定で、改印の手間をできるだけ避けたい場合は、耐久性の高い素材を選ぶと安心です。
法人実印と一緒に銀行印・角印も作るべき?
会社設立時には、法人実印だけでなく、法人銀行印や角印を一緒に作る方法があります。
| 印鑑の種類 | 主な用途 |
|---|---|
| 法人実印 | 登記、重要契約、融資、不動産取引など |
| 法人銀行印 | 法人口座の届出、預金取引など |
| 角印 | 請求書、見積書、領収書、納品書など |
法人実印と銀行印は分けた方がよい
法人実印を銀行印として兼用すること自体は可能ですが、一般には分けて管理することをおすすめします。
同じ印鑑をさまざまな書類に使用すると、印影が外部へ出る機会が増えます。
また、紛失した場合には、法務局と金融機関の両方で変更手続きが必要になります。
法人実印は重要契約用、法人銀行印は金融機関用として分けることで、管理上のリスクを抑えられます。
角印は法務局への届出が不要
角印は会社名を四角い印面に彫刻した印鑑で、請求書や見積書などの日常的な書類に使用します。
法務局へ届け出る印鑑ではありませんが、会社設立後すぐに請求書や領収書を発行する場合は、用意しておくと便利です。
法人実印・法人銀行印・角印をまとめた法人印鑑セットを選べば、印鑑ごとの大きさや用途を分けやすくなります。
法人実印に関するよくある質問
Q.会社を作るときに実印は絶対必要ですか?
電子署名を利用してオンラインで設立登記を申請する場合、法務局への印鑑提出は任意です。そのため、法人実印を作らずに設立できる場合があります。
ただし、書面で登記申請をする場合や、設立後に法人の印鑑証明書が必要になる場合には、法人実印の作成と届出が必要です。
Q.法人実印を作らないと違法になりますか?
オンライン申請によって適法に設立登記を行い、法人実印を届け出ないこと自体が直ちに違法となるわけではありません。
ただし、必要な契約や手続きで印鑑証明書を提出できず、取引を進められない可能性があります。
Q.法人の印鑑届出は本当に任意ですか?
オンラインで登記を申請し、申請情報または委任状情報に必要な電子署名が付されている場合、法務局への印鑑提出は必須ではありません。
一方、書面による申請では従来どおり印鑑が必要になるため、すべての登記方法で任意になったわけではありません。
Q.オンライン登記なら法人印鑑は一切不要ですか?
設立登記の申請だけであれば、省略できる場合があります。
しかし、設立後の法人口座開設、融資、不動産契約、車両登録、取引契約などで法人実印や印鑑証明書を求められる可能性があります。
Q.設立時に作らず、必要になってから作ってもよいですか?
後から法人実印を作り、法務局へ印鑑を届け出ることもできます。
ただし、必要になってから印鑑を注文すると、契約や融資などの手続きが遅れる可能性があります。
使用する可能性があるなら、設立時に準備する方がスムーズです。
Q.一人会社でも法人実印は必要ですか?
代表者が一人だけの会社でも考え方は同じです。オンライン申請では印鑑提出を省略できる場合がありますが、会社と代表者個人は法律上別の存在です。
会社名義の契約や資産取得に備え、個人の実印とは別に法人実印を作っておくと、会社と個人の手続きを区別しやすくなります。
Q.法人実印の代わりに代表者個人の実印を使えますか?
会社名義の契約で、代表者個人の実印を法人実印の代わりとして使用することは、基本的にはおすすめできません。
会社と代表者個人は別の権利主体です。法人として印鑑証明書を求められた場合、代表者個人の印鑑証明書だけでは代用できないことがあります。
まとめ|印鑑届出は任意でも法人実印は準備しておくと安心
2021年2月15日以降、電子署名を利用してオンラインで登記申請を行う場合、法務局への法人印鑑の提出は任意になりました。
そのため、制度上は法人実印を作らずに会社を設立できる場合があります。
しかし、これは設立登記で印鑑提出を省略できるという意味であり、会社運営のすべての場面で法人実印が不要になったという意味ではありません。
法人実印や法人の印鑑証明書は、次のような場面で求められる可能性があります。
- 法人口座の開設
- 創業融資や銀行融資
- 事務所・店舗の賃貸借契約
- 不動産や自動車の購入・売却
- 重要な取引契約
法人実印を作らないことによる費用削減は限定的ですが、必要になったときに印鑑証明書を提出できない影響は小さくありません。
今後も完全に電子契約だけで運営できると明確に判断できる場合を除き、法人実印は会社設立時に作成し、法務局へ届け出ておく方が安心です。
法人印鑑の作成をご検討の方へ
法人実印は、会社名、会社形態、代表者の資格によって適した彫刻内容が異なります。
法人実印・法人銀行印・角印のサイズや素材、必要な組み合わせで迷っている方は、会社設立の予定や用途に合わせてご相談ください。
※登記申請、契約、金融機関の手続きに必要な書類は、申請方法や取引先によって異なります。具体的な登記手続きは管轄法務局または司法書士、口座開設・融資については利用する金融機関へご確認ください。



